古畑任三郎 vs 夜神月

http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1133006444/
ここの>>67から始まるSSがやったらおもしろい。なぜか葉鍵板にあるけど。
3/2現在までの部分を抽出してみた。

アバンタイトル

67 名前:アバンタイトル〜古畑からの挨拶〜 [sage] 2006/01/29(日) 18:20:28 id:OLoC1mzg0
……どうも〜。古畑です。

今回の相手は。歴代の週刊少年ジャンプ史上……いいえ、少年漫画史上、
おそらく最も冷酷で悪魔的な頭脳を持つ主人公、デスノート夜神月クンです。

何しろ、書いただけで人を殺せるノートを使って犯罪者を一掃して、
世界人類全ての意識を改革し、新世界の神になる―――などという
とんでもない理想を掲げ、それを本気で実行しようとする少年です。

彼は驚くべき事に、それを実現可能ではないか、と思わせる程の知恵と機転、
そして何より己の感情を自在にコントロールする術を持っています。

物語の中で、新世界の神に成ろうとする彼にとって、今の世界そのものが敵と言えます。
その証明に彼を追う敵はどんどん凶悪に、大規模になっていきます。

日本警察、FBI、世界的犯罪組織……彼はそれに対応するかのように
その頭脳もどんどん凶悪に、そして人外的に冴え渡っていきました。

だ・が。……もし、その敵がたった一人の刑事だったら?

しかも、その刑事がいい歳をして、警部補どまりで警視庁でも変人扱いされるような、
まさに何事にも完璧である自分と正反対の欠点だらけの冴えない男が相手だったら……

んふふふ〜。自分で言っていて少し悲しくなってしまいました〜。

物語は、彼が初めて直接話を交わした人物を殺した直後―――
つまり夜神月がレイ・ペンバーを殺害した時点から始まります。

漫画では1〜3巻にあたります。お持ちの方は読み返すと尚楽しめるかと思います。

では……古畑任三郎vs夜神月、始まります。

事件編

68 名前:事件編〜夜神月の決意〜 [sage] 2006/01/29(日) 19:39:55 id:OLoC1mzg0
そうして、また一人。キラという偽神に粛清される。

「うっ!」
電車を降りた所で、若き捜査官は崩れ落ちる。苦悶の表情を浮かべ、
レイ・ペンバーは必死の思いで振り返ると―――

(や … … 夜 神   月 !!!)
閉じゆく扉の向こうに、信じられない人物が居た。

「さよなら。レイ・ペンバー」
その呟きに合わせた様に男の心臓は鼓動を止めた。己を殺したモノを最期まで凝視したまま――


(ここまではLを追い詰める為に計算してやってきた事だが……)
その日の夜、己の部屋で夜神月は深く考察する。
そう。その悪魔的頭脳こそが、彼を神の高みへと押し上げる『デスノート』以上の武器。

(日本に入ったFBIがたった12人だったとは……僕に早い時点で備考がついていたのは
 単に父が捜査本部の上の人間だったからという事なのか?)

無論、証拠などは残していない。しかし、50人は動員されていると踏んでいた月にとって、
予想外の出来事である事には変わりなかった。

(僕は、この数日かなり動いた……考えるんだ。落ち度は無かったか……
 そして、これからどう行動するか……)

しばし瞑目した後、神を目指す少年、キラは新たに決意を固める。
(これからが本当の戦いだ……!)

だが、月は知らない。
今日のこの日を境に、思いもしなかった男と戦う事を。

導入編

72 名前:導入編・1〜古畑登場〜 [sage] 2006/01/30(月) 00:09:30 id:O8FpiTQT0
捜査官や刑事が引っ切り無しに動き回る殺人現場。そこに。

「あ〜もう、何で駅の自転車置き場はこんなにホームから遠いんだろうねぇ、西園寺君。
 お陰でココに来るまでに息が切れちゃったよ、もう」
まるで当然のように遅れて来たうえ、部下に愚痴を零す黒尽くめの男、古畑は居た。

「ご苦労様です、古畑さん。……ですが、ご足労をおかけしたばかりの
 所で大変申し訳無いんですが―――」
上司と違って人一倍早く現場に着いた小男、西園寺はキッチリと上司に敬礼した後、
丁寧に……しかし悲しげに言葉を濁す。

「ん? 何かあったの?」
「キラですよ! キラ! キラが自分を探ってた捜査官を殺したんですぅ!」
古畑の問いに、自分より小さい西園寺を盾にするようにして震えるハゲ頭、今泉が答える。
何がそんなに恐ろしいのだろう。惜しむ程の上等な命でもあるまいに。

「ですから、キラ事件の担当でない私達は万が一キラでの殺しでなかった時のための予備……
 いや、懸命に捜査している事を一般人にアピールする為の頭数みたいなものです」
今泉の台詞を受け、悔しそうに目線を逸らす西園寺。
実際、生真面目な彼にとって殺人現場に居ながら何も出来ない事は屈辱なのだろう。

「でしょう!? だから帰りましょう? ね? ね?」
対照的に嬉々として、現場から退避しようとする今泉。お前は何の為に刑事になったのか。

「ん〜……まだ、キラの仕業と決まったわけじゃ無いでしょ?」
「え? では、古畑さんはこの心臓麻痺はキラ事件と無関係だと……?」
ペチン、とハゲ頭の額を叩き付けながら歩を進める古畑に、西園寺は首をかしげる

「断言できない、って事だよ。我々はあ・く・ま・で、『この事件の真相』を捜査する。
 それが仕事でしょ〜? 私らはさぁ」
言いながら古畑は遺体に歩み寄り、掛けられた布を捲り上げる。
この時が―――警部補・古畑任三郎が、神を騙る虐殺者キラに挑んだ瞬間だった。

81 名前:導入編・2〜レイ・ペンバー〜 [sage] 2006/01/30(月) 23:20:11 id:O8FpiTQT0
「捜査官……て言ってたよね? 彼、ハーフっぽいけど……身元は?」
「本名、レイ・ペンバー。27歳・日系アメリカ人の男性。職業はFBIの捜査官です」
古畑の問いにテキパキと答える小男、西園寺。キラの祟りを恐れて震えてるだけのハゲとは違う。

FBI……って事は、今泉君の言う通り……」
「ええ。レイ・ペンバーはキラ事件を追うFBIの調査官の一人として12月14日に来日。
 そして今日、12月27日の15時13分山手線の列車に搭乗―――
 約1時間半後の同日16時42分、列車を降りた直後に心臓麻痺で死亡しました」

「ひぃ! 日本に来てからたった2週間足らずで殺されたって事かよ……!」
「……確かFBIって秘密主義じゃなかったっけ? よく彼の情報を手に入れられたね〜」
「この情報は30分ほど前に、FBIから警察庁に公表された物です。そして……
 彼らは得た情報を全て提供した後、キラ事件から手を引くとも告げています」
怯えるハゲを無視して不思議そうに呟く古畑に、西園寺は言外に侮蔑を交えて説明する。

「要するに、命惜しさにビビって逃げちゃった……て訳、か。
 まぁ、FBI長官の顔と名前は公表されちゃっているからねぇ」
「色々言い訳はしているみたいでしたが……『キラは顔と名前を知った人間を殺せる』という
 未確認情報がある以上―――本音は古畑さんの言う通りでしょう」
呆れる古畑に、西園寺は苦々しく言い捨てる。今泉と違った意味で、この男も感情豊かだ。

「ねぇ、西園寺君。彼の心臓麻痺が偶然という可能性は?」
「120%有り得ません。来日直前にFBIによる綿密な健康診断を受けていますし、
 同じく来日した他の11人の捜査官も同じ日に心臓麻痺を起してます。それに―――」

「それに?」
「警視庁では……既にこの事件をキラの仕業として認定しているそうです」
やる気になった古畑を落胆させるのが辛いのか、小男は力無く告げた。

「ふ〜ん……」
だが、古畑はそんな事はお構い無しに亡骸を―――レイ・ペンバーを見つめていた。
落胆どころか……彼はこの事件を捜査する事を決めたのだ。

82 名前:導入編・3〜たった一人の犠牲〜 [sage] 2006/01/30(月) 23:52:36 id:O8FpiTQT0
「とにかく、この事件は今日を以って管轄は『凶悪犯連続殺人事件』、
 通称『キラ事件』の捜査本部に委ねられます。我々がする事はもう……」
「案外、あるかもしれないよぉ。西園寺君」
現実を突きつける様な部下の報告にも、捜査モードに入った古畑は動じない。

「……え?」
「何百人を殺す大虐殺者を追うより、たった一人の犠牲者を調べる方が
 真実に近づく時もある……ってコト、さ」
若き捜査官の最期の表情を覗き込んで言う古畑に、西園寺は疑問を口にする。

「そういうものでしょうか? 僕には、彼は千を越える『キラ事件』の犠牲者の一人としか―――」
思えない。と、言い切る前に西園寺はバチン! と豪快な音が鳴る程、古畑に額を強く叩かれた。

「痛っ!! 何するんですか! 古畑さ……」
叩かれた小男は暴力を振るった男への抗議を言おうとして……息を飲む。

抗議すべき彼の人は、はっきりと怒りを表情に出していたのだ。

「いいかい、西園寺君。『殺された者にとって犠牲者は常にたった一人』なんだよ」
「犠牲者は常にたった一人……ですか」
滅多に見せない真剣な表情で語る古畑に、やや呆然と聞き返す西園寺。

「だってそうだろう? 命は一人につき、一つだけ。人生は一度きりなんだから。
 人の死に関わる我々は『大勢の内の1つに過ぎない犠牲』なんて決して言ってはいけない
「そう……ですね」

「うん。そんな事を言っていると、いつか人の命の重さを数でしか理解出来なくなってしまうよ?
 ――――――あの『キラ』みたいに、さ」
まるで自分に言い聞かせる様に話しながら、古畑は亡骸の視線の先を追う。

そこには、今しがた到着した列車の扉があった……。

遭遇編

84 名前:遭遇編・1〜玄関での対峙〜 [sage] 2006/01/31(火) 06:21:36 id:GHtvVAgA0
そして。年が明けた元旦の正午。ついに男の手によって夜神邸の呼び鈴が鳴らされた。
「いいよ、母さん。僕が出る」
はーい、と返事をする母を制止して、食事を終えたばかりの月は玄関に向かう。
この扉の向こうに立つ男の容姿を、自分に憑いた死神から聞かされていたからだ。

「済みませ〜ん。警視庁の古畑という者ですが〜」
―――そう。いかにも刑事然とした黒ずくめの男の姿を。

来たか、と思った事をおくびにも出さず、月は玄関を開けながら意外そうな顔をして問う。
「警視庁……? 警察庁ではないんですか?」
「ええ。今日はお父さんの事ではなく、先日亡くなったレイ・ペンバーという人物について
 話をお伺いしようとやって来ました―――」

そこで、古畑は言葉を切ってニヤリと微笑みながら言い切った。
夜神月クン。貴方、に」

「僕に、ですか?」
その言葉に驚く。……フリをして、月は問う。
「ええ。それで、できれば貴方の部屋でお話を伺いたいんですが……宜しいでしょうか?」
頷きながら、にこやかに訊ねる古畑。だが。
「…………」
月は、その瞳に試すような色が含まれているのを見逃さなかった。
「……いいですよ。事件がらみの話なら、家族に聞かせる訳にもいきませんし。
 狭くても構わなければ」
だから、古畑の挑発に敢えて乗った。が。

「その前に古畑さん。失礼ですが手帳を見せて戴けませんか?」
自然に、さりげなく月は切り出した。

「え? 手帳……ですか?」
「警察手帳ですよ。今のご時世、身分が判らない者を家へ上げる訳にはいきませんからね」
月は古畑にそう告げた。ほんの僅かに目を細めながら。

105 名前:遭遇編・2〜虚実遊戯〜 [sage] 2006/02/01(水) 05:39:05 ID:2I/xnL2c0
「あー……すみません。私、今ちょっと持ち合わせていなくて……」
「え? 警察手帳をですか? 捜査中の刑事が?」
「実は私、警察手帳を自分の部屋で失くしてしまって……身分をお疑いでしたら、
 警視庁の方に電話していただければ、直に確認できると思いますぅ。
 今回みたいな事は、私にとって良くある事ですので」
「良くある事……って、それは拙いんじゃないですか?」
流石の月もこれには呆れた。言い訳なら苦しすぎる。恐らく本当であろう。
しかし、理解しても納得できる話ではない。

「んふふ。大丈夫です。なんでしたら、お父さんの夜神局長に連絡してもらっても証明できます。
 彼が警視庁で勤務されていた頃、一緒に捜査していた事がありますから」
「へぇ。そうなんですか」
こちらの方は、杜撰な刑事と父の意外な接点に少しの驚きを感じつつも、月は一方で納得もしていた。
要するに古畑刑事はどの程度かは判らないが、自分をレイ・ペンバー殺しの犯人―――
つまり、キラだと疑っている。そんな人物にフルネームを教える馬鹿はいない。

(『古畑』の名前と容姿が父にも警視庁にも通る、という事は『古畑という苗字』は本当だろう……
 だったら、無理に今それ以上聞き出す必要は無い、か)
秒にも満たない思考時間の後、月は頷く。

「解りました。信頼しましょう。今、ドアチェーンを外しますね」
「本当ですか? いやぁ、良かった。有難うございます、月クン」
心底、嬉しそうに玄関から入って来る刑事。しかし。

「……古畑さん。出来れば僕の事は苗字で読んで頂けないでしょうか?
 警察庁以外の他人に名前で呼ばれるのは正直……ちょっと抵抗があるんで」
【ククク……よく言うぜ、ライト】
と、後ろで嘲笑う死神を無視して、月は古畑にそう言った。

「あ……はい。済みません〜。いやぁ、夜神局長を知っているせいか、
 息子である貴方につい、馴れ馴れしい態度をとってしまいました……」
古畑は何故か寂しそうな顔で、その頼みに深く頷いた。

113 名前:遭遇編・3〜唯一の手掛かり〜 [sage] 2006/02/02(木) 19:32:51 ID:2doejr3d0
「実は先月半ば、バスジャック事件があったんですが、そこに貴方とFBI捜査官であるレイ・ペンバーと
 貴方が巻き込まれた事を知りまして。生前の彼を知る一助に……と、お話を聞きに来た次第でして」
月の部屋へと行く途中。階段を上りながら、古畑は訪ねてきた理由を話す。

「成程。でも、あのバスジャック事件で、そのFBI捜査官……ええと―――」
「レイ・ペンバーです。お名前はお訊ねにならなかったのですか?」
「緊急事態でしたし、FBI捜査官だった事の印象が強くて、それ以外は流石に覚えてないですよ。
 ……それで、その人と僕があのバスに居た事が、よく判りましたね」
名前を知らなかった事をさり気に強調しつつ、古畑に問う。

「いや、ホント大変でした〜。何しろ秘密主義のFBI捜査官ですからねぇ。
 足取りを掴むのには相当苦労しました〜。ですが幸運な事に、彼の関係者が日本にいましてね」
「関係者、ですか?」
「日本人の婚約者で、同じホテルに滞在していたんです。で、その方がバスの話を聞いていたんですよ」
「……随分と、口の軽い捜査官ですね。FBIは秘密主義じゃなかったんですか?」
にわかには信じがたい事実に、月は眉を顰める。

「言われてみればそうですね〜。ですが、私にとっては幸運でした。……何故なら。
 その時のバス乗客の一人に、彼が貴方と会話を交わしているのを覚えていたんですよ」
恐らく、その乗客とは連れの女……ユリだろう。語る古畑の顔は非常に晴れやかだ。

「だから僕に話を聞こうという訳ですか。……でも、僕は彼とは2〜3言くらいしか会話してませんよ?」
「構いません。この際、どんな事でも良いから知りたいんです。レイ・ペンバーの死に関しては、
 あまりにも手掛かりが少ないので。文字通り、『ワラをも掴む思い』と言うヤツです」
ふふふ。と苦笑する刑事の顔は、唯一の手掛かりへの期待だけを表している様にも見えるが……

「まぁ、それで良いというのでしたら喜んで協力しますけど」
「有難うございます。貴方の部屋でゆっくり思い出して下さい。……出来るだけ詳しい話が聞きたいので」
嬉しがる古畑を尻目に、肩をすくめながら月は自分の部屋の扉を開けた。

……そう。死神と死の記帳が在る、自らの領域へと招き入れたのだ。

個室編

132 名前:個室編・1〜古畑入室〜 [sage] 2006/02/06(月) 19:54:49 id:RCtyiYTu0
二人が部屋に入ろうとした、その時。

「おや? ライ……じゃなかった、夜神クン。落し物ですよ」
ドアの前に屈んだ古畑は、部屋に入ろうとする月に後ろから声を掛ける。

「落し物? 僕は別に何も―――」
「コレですよ。コ・レ。……ドアに挟んだ付箋」
「ああ、ソレですか。親から学生のプライベートを守る為ですよ。人を招く時は無視しているんです」
「その気持ち解ります〜。私も学生時代はよくやりましたぁ。ふふふ……
 今更ながら『学生の部屋に入る』という実感が湧いて来ました」
月の台詞を聞き、何故かとても楽しそうに部屋に入った刑事は。

「―――」
余りにも清潔で整頓された部屋に絶句する。大晦日の大掃除の後とは言え、カーテンから窓の外側まで
完全に磨かれ、まるで新築のごとき部屋に圧倒されたのだ。

「……はぁ。随分とキレイに片付けられた部屋ですねぇ。お母様の掃除は徹底的のようだ」
「嫌だな、古畑さん。自室の掃除くらい僕自身でしてますよ。まぁ、母が綺麗好きなのは事実ですけど」
一通り眺めた後、関心半分・呆れ半分で感想を述べる古畑に肩を竦めて言い返す月。

「貴方一人で!? さぞ大変だったでしょう。普通はここまでしませんよ、大掃除と言っても」
「はは。整理整頓と掃除機がけは習慣化してますから、大変と言うほどでもないですよ」
何をそんなに不思議なのか。大げさに驚く古畑に、月は苦笑する。

「それじゃあ、見えない所……机の引き出しなんかも、さぞ綺麗に整頓されているんでしょうね……」
まるで異世界に居るかのような口調で、古畑は机の引き出しに手を伸ばす。

……そう。デスノートの隠されている一番目の引き出しに。

「待ってください」
気が付けば。机に触れようとした古畑の手を、月は思わず掴んで止めていた。

139 名前:個室編・2〜月の性質〜 [sage] 2006/02/07(火) 07:59:03 id:OgBgLR5T0
「何か?」
怪訝そうに訊ねる古畑。いきなり腕を掴まれたのだ、当然の反応と言える。

「僕は他人に机を触られるのは嫌いなんです。人一倍、ね」
「……では、引き出しを開けられる、なんてのは」
「論外です。本棚の本だって他人に触れられるのは不快な程ですから」
「あー……はははぁ〜。そうですか」
誤魔化す様に苦笑しながら、ゆっくりと手を引っ込める古畑。そして、息を吐いて椅子に座る月。

「すいません、腕を掴んだりして。でも僕は、他人に自分の領分を掻き回されるのは我慢できなくて」
「いえ、失礼しているのはこちらですし。まぁ、それも当然でしょう。……ここまで几帳面に本を並べる人なら」
「そう言って貰えると助かりますけどね」
謝る月に、神経質なほど規律良く並べられた本を眺めながら頷く古畑。

「ところで夜神クン。本って腐ったりしない上に、どんどん増えるから置き場所に困るでしょう?」
「別に困りはしませんよ。読まなくなった本は、すぐに売るか、粗大ゴミとして出してますから」
話題を変えようと訊ねる古畑に、気まずさを払拭するためか、爽やかに返答する月。

「え? 処分するんですか? また読みたくなったらどうしよう、とか悩みません?」
「読みたくなれば、また買うか図書館で読めばいいでしょう? 要はメリットとデメリットの取捨選択。
 僕にとって『整然とした本棚にする事』が『買い直す面倒』より重要、という事です」
「だからといって、せっかく買った本をすぐ捨てるとは……凄い決断力です。私にはとても真似出来ません」
「整理術の基本ですよ? そんな事だから警察手帳を失くすんです」
本棚を見つめたまま肩を竦める刑事に、部屋の主は呆れた態度を隠せなかった。

「かも知れませんね。…………んふふ、夜神クン。私、何となく貴方の性格が掴めて来ました〜」
「そうですか?」
本棚を覗き込んだ姿勢のまま、顔だけを月に向けて自信有り気に言う古畑。胡散臭げに見上げる月。

「ええ、この部屋を見てよく解りました。貴方は『邪魔なモノはすぐさま処分する性格』だという事が」
「…………」
見上げる月の視線と、見下ろす古畑の視線が交錯する。

146 名前:個室編・3〜本題突入〜 [sage] 2006/02/08(水) 04:51:05 id:nSQUyx2m0
一瞬の後。

「―――ハハハ。随分と険のある言い方ですね」
月は素晴らしく爽やかな笑顔で返す。

「いや〜、すみません。自分がズボラなせいか、神経質なモノには言い方がキツくなるようです。
 言い方が気に入らなかったのなら謝ります〜」
んふふふ〜。と、苦笑しつつ胸に手を当てて紳士の礼のような仕草で頭を下げる古畑。

「いいえ、粧裕……妹にも潔癖症気味で息が詰まる、と小言を言われた事がありますから」
「そうなんですか。では、妹さんはそうではない?」
「ええ。母に似てノンビリ屋です。ああ……でも母は物を捨てるのが下手ですがキレイ好きですし、
 僕も妹とは違う所で母に似ている、という事になるのでしょうか?」

「なるほど〜。と、すると貴方はお父さんから厳格で決断力に富み、正義感が強い所を……
 お母さんから潔癖で汚い物が許せない所を受け継いでいる訳ですねぇ」
月の台詞を受け、納得いったとばかりに芝居じみた態度で頷く古畑。

「そうなりますか? 僕は、自分が父に似ているなんて言ってはいないのですが」
「ええ。少なくとも私にはそう見えます。でなければ犯罪関係の本をこんなに沢山持ってはいません」
またも棘のある言い方をされ、眉を顰める月に、古畑は本棚にあるそれらを指して肩を竦める。

「ああ、確かに。犯罪学や法律に興味が有るのは父の影響ですね」
「でしょう? そうでなければ、あんな本を沢山読む学生なんて……危ない犯罪予備軍です」
複雑な顔で行う少年の首肯に、苦笑なのか微笑みなのか判別の付きにくい顔で笑う刑事。

「……古畑さん。貴方は僕の性格診断のためにやって来た訳じゃないでしょう?」
「勿論です。ふふふ、随分と話が横道に逸れてしまいましたねぇ。本題に入りましょうか」
不快感を抑えながら問う月に古畑は苦笑し、彼に向き直ってベッドをソファ代わりに深く座る。

「では……レイ・ペンバーと出会った時の事をお聞かせ願えますか? 夜神クン」
そして古畑任三郎は、ようやく開始した。……夜神月への尋問を。

疑惑編

149 名前:疑惑編・1〜相違点〜 [sage] 2006/02/09(木) 03:22:01 id:I9G3XPmJ0
二人は死んだレイ・ペンバーについて話を交したが、それは彼等にとって何の意味もなかった。
双方の口からは己が知っている事しか出て来ず、ボロも全く出さなかったからだ。

「……じゃあ、古畑さんはレイ=ペンバー変死事件のみの担当なんですか」
故に。月にとって重要なのは、死んだ男の話などではなく、この点だった。

「はい。私は警察庁の人間ではありませんし。正直、私とキラ事件とは何の関わりも有りません。
 だから、手掛かりが無いんです。警察庁の方では、レイ・ペンバーの死はキラ事件と決め付けて、
 警視庁の一刑事である私には、なーんにも教えてくれないモンですから〜」
それを知ってか知らずか、極めて軽い調子で月に愚痴を零す古畑。

「関わりが無い? つまり、この事件はキラとは無関係だと?」
「ええ、まあ。と言うよりですね、キラ事件は私にとって『どうでもよい』事なんです。実は」
「キラ事件が……ですか?」
露骨に疑う月。確かにマスコミの騒ぎ様から考えても、その結論はにわかには信じ難い。

「ええ。今の私の仕事は、あくまでレイ・ペンバーの心臓麻痺の真相を突き止める事。
 それ以外の事件に割く時間も有りませんし、興味も無いんです」
「はぁ。……いかにも、お役所的な考え方ですね」
素っ気無い古畑の話を聞いて月は苦笑する。侮蔑の感情が混じっている事を巧く隠しながら。

「いやぁ、お恥ずかしい限りですが、残念ながらコレが組織の限界というヤツです。
 私自身、『キラ』という人間が本当にいるのか疑わしいと思っていますしね。
 レイ・ペンバーの事件を追う事が結果的にキラを逮捕する事に繋がれば万々歳でしょうが……」

「そうでない、と思っている訳ですね?」
「ええ。その通りです。何故なら―――」
爽やかな顔で問い掛ける月に、同じように微笑みながら古畑は頷く……が。

「この事件だけは、他の『キラ事件』と決定的な相違点があるんですよ」
一転。真剣な表情で月の顔を覗き込み、古畑は力強く断言した。

150 名前:疑惑編・2〜オープン・ザ・ゲーム〜 [sage] 2006/02/09(木) 03:57:57 id:I9G3XPmJ0
「相違……点?」
古畑の豹変振りと、その台詞に月は半ば呆然とする。レイ・ペンバーが死んだ時を思い返し、
何が違っていたのかを必死で思案する。だが。

「振り返ったんです。死ぬ前に」
「…………え? それだけですか?」
彼の示した答えに、月は拍子抜けしたように訊ねる。

「ええ。それだけです。夜神クン、キラ事件は基本的に遠く離れた所から心臓麻痺で
 魔法のように人を殺す。……それがキラの『殺し方』でしたよねぇ?」
「あ……はい。そうですね」

「ところがですね〜。このレイ・ペンバーだけは振り返って『誰か』を事切れるまで
 凝視しているんです。その様子は駅の防犯カメラにしっかり映っていました」
古畑は解説しながら立ち上がり、月に背を向けて3歩ほど離れる。

「彼は列車から降りた直後、このように倒れ、必死の形相で振り返り―――
 閉まって行く扉の向こうを見ながら死にました」
両膝から崩れ落ち、後ろにいる月の方へ顔を向け、目を見開き、彼を直視しつつ倒れる古畑。

「仕事柄、多くの亡骸を見てきた私には、その動作と形相にピン! ときました〜。
 『ああ、この男は自分を殺した人間を見ながら死んだんだ』…………とね。
 だからレイ・ペンバーはその『誰か』に殺されたのではないか、と私は考えています。
 キラでなくても殺せる程に近くに居て、彼が最後まで見つめていた、その『誰か』、に」
「…………」
刑事の説明と自身を使った再現に、咄嗟に台詞が出てこない月。そして、そのまま古畑は問う。

「それを踏まえた上で一応、夜神クンにお訊ねいたします。12月27日の15時から17時。
 貴方は―――どこで何をしていました?」

レイ・ペンバーが死したその体勢と、表情のままで。

173 名前:疑惑編・3〜ポーカーフェイス〜 [sage] 2006/02/11(土) 19:01:58 ID:8WhZnlG60
……あの日、あの時。確かに夜神月は『キラ』として疑われる証拠は全て排除した。
しかし『レイ・ペンバー殺し』として疑われるなど思考外だった。故に。

(アリバイへの対処などしていなかった……っ! どうする!?)

「…………」
「どうかしましたか?」
深刻な顔で塞ぎ込む月に、心配そうに古畑が問いかける。

「12月27日の15時から17時、でしたよね。多分、その時は山手線の列車に乗っていました」
「本当ですか!? では事件の時、貴方はアリバイが無いどころか―――」
「ええ……下手をすると、同じ列車に乗っていたかも……古畑さん 僕は容疑者になりますか?」
「まさか!! アリバイが無い、というだけで『動機』も『凶器』も無い人物を容疑者にはしません」
傍らで見ていた死神も呆れる程の悲痛の演技で、月は刑事から否定の言葉を引き出す。

「そうですか。よかった……もしかして、逮捕されるんじゃないかと焦りましたよ」
「まぁ、『動機』と『凶器』が見つかったのなら、最重要容疑者になってしまいますが。
 夜神クンに限って、そんな事は万が一にも無いでしょう」
「…………」
安心させるように笑顔で古畑は語るが、その台詞は月にとって気休めにもならない。

「すみません。お話を聞くだけだったのに、疑うような事を言って嫌な気分にさせてしましたね。
 今日は、この辺で失礼いたします。お話頂いて有難うございました」
「いえ、そんな。また、事件のことで何か訊きたければ、何時でも協力しますよ」
頭を下げながら扉へ向かう古畑に、月は引き止めない程度に声を掛けた……のだが。

「あ、そうだ……夜神クン。帰る前に一つ、個人的な質問をしても構いませんか?」
「個人的な質問……? 何ですか?」
月の台詞で思い出したかのように、古畑は扉の前で振り返り、そして。

「もし、『キラ』という犯罪者がいると仮定して―――貴方はどんな人物だと思いますか?」
しれっとした顔で、その男は月にトンデモナイ事を訊いてきた。

騙詐編

183 名前:騙詐編・1〜月の騙り [sage] 2006/02/14(火) 16:27:38 ID:j+sytro30
「キラ……ですか? 古畑さん、貴方はさっきキラ事件には興味が無いと―――」
「いえいえ。事件ではなく『キラという現象』に対しての質問です。キラは中高生……
 貴方ぐらいの学生に信仰と言って良いほどの支持を得ているのはご存知でしょう?」
いぶかしがる月の台詞に、苦笑しながら説明する古畑。

「ええ。ネットで騒がれていますね」
「私には十代の学生の知り合いなど居ませんので、高校生である貴方に意見を聞ければいいな、
 と思っただけです。あくまで私の個人的興味からの質問で、捜査には全く関係ありません。
 まぁ、言いたくないのでしたら無理に仰らずとも……」
「良いですよ。僕も自分の推理を父以外の警察の方に聞いて貰いたかったんです」
古畑の台詞を遮る様に了承する月。下手に拒否してキラだと疑われるのは心外だ。

「有難うございます。では、改めて。夜神クン、『キラ』はどんな人物だと思いますか?」
「そうですね……一言で表すなら、『裕福な子供』でしょうか」
「ん〜面白い表現ですねぇ。理由をお聞かせ願えますか?」

「理由はこうです。仮に『念じるだけで人が殺せる』、そんな能力を持つ人間がいたなら。
 犯罪者を殺して減らしていくと共に、それを見せしめにして世の中を良くしよう……
 そんな事を考えるのは、せいぜい小学生高学年から高校生位までです」
「でしょうね。私もそう思います」

「もっと幼ければ、そんな能力は怖くて使えないか、自分の周りの嫌な人間を殺す程度でしょうし、
 逆に成人以上の大人なら己の出世や金の為に能力を利用する筈です。
 だから、キラはどこか純粋さを持っていて、何不自由なく暮らしている『裕福な子供』。
 自分専用の部屋・携帯・パソコン・テレビを持っている中学生という所でしょう」
「流石は夜神クン。私の考えとは違いますが素晴らしい推理です」

「『私の考えとは違う』? ……じゃあ、今度は古畑さんの考えを教えてくださいよ」
「私の推理ですか? 何だか発表会みたいで恥ずかしいですが……解りました」
古畑は、照れ笑いを浮かべながら。しかし、絶大な自信を以って断言する。

「もしキラが存在するならば。……それは恐らく『完璧な優等生を演じる男子高校生』です」

189 名前:騙詐編・2〜古畑の探り〜 [sage] 2006/02/15(水) 05:28:57 id:sZb7Mnav0
「随分と限定的な人物像ですが……当然、根拠はあるんですよね?」
「んふふ。勿論です」
余りに確信的な表現に、自然と言葉が荒くなる月。笑顔で答える古畑。

「まず、何故に男性なのか? これは簡単な理屈です。こんな事に命を賭けるのは
 男しかいないからです。女性なら、こんな馬鹿げた理想の為に命は賭けません〜。
 仮に女性なら、それは損得勘定が出来ない愚か者。FBIを出し抜くなんて無理です」
「確かに、女性は男より現実に生きる生き物と言われてはいますが……」

「そして、自分の身の危険を顧みず、警察組織を敵に回しても世界を変える、という決意。
 これは『警察などの現状の法では世の中が良くならない』と思い知らねば出来ません。
 中学生以下では、警察や世界に絶望するには経験や時間がいささか足りない。
 そして大学生以上なら夜神クンの言う通り、己の為に能力を使うでしょう」
「消去法で高校生、と言う訳ですか。では『完璧な優等生』というのは?」

「それは、キラが警察を出し抜ける、という『自信』を持っているからです。この理由は
 警察を率いるLから宣戦布告されても殺人を続けている事から推測できます」
「優等生だから……頭が良いから警察に勝てる自信があると?」

「それもありますが、一番の理由はキラ本人が『最も疑われ難い存在』だからだと思うんです。
 つまり。客観的に見て、世界を変える動機の無い人物。勉強・スポーツ・家族や友人関係・恋愛。
 全てが上手くいっている、何不自由無く、不満も無い学生。それを端的に言うと―――」
「『完璧な優等生』、ですか」
説明を継いだ月の呟きに、古畑は胸に手を当てた芝居じみた動作で頷く。

「更に言えば、学生がキラのような能力を持てば、普通は己の劣等感を克服する為に使うハズです。
 例えば勉強やスポーツや恋愛におけるライバルの排除、或いは劣等感を助長する人物の消去。
 ですが、キラはいきなり『世界』を変えようとした。何故でしょうか?」

「キラが自分の事に対して、不満や劣等感を全く持たない完璧な人物だから……ですね?」
「その通り。恐らく、キラは自分を『日本一真面目な優等生』とでも思っているんでしょう」
月の解答に古畑は両手を挙げて苦笑する。居ない筈の『キラ』を蔑むように。

192 名前:騙詐編・3〜茶番の終わり〜 [sage] 2006/02/15(水) 06:51:57 id:sZb7Mnav0
「不確定情報を含めて推理するなら、高校生なのに警察という組織の現界を知って絶望してる点や、
 キラ対策本部の動きを察知している点から、『家族か親しい人に警察庁の人間が居る』人物。
 罪無きFBI捜査官を殺した事から『邪魔な者は誰でもすぐさま処分する性格』と考えられます」
「………………」
矢継ぎ早に語られる推理に、夜神月は口を挟めない。否、挟む言葉が見つからない。

「それでですね〜夜神クン。『完璧な優等生の男子高校生』で『家族に警察庁の人間』がいて、
 『邪魔なモノをすぐさま処分する性格』の人物に、貴方は心当たりはありませんか?」
最後に。古畑はあくまで白を切った顔で、思い出したかのように月に質問した。

「ふ……ふふふ」
「ん〜……ふふふ」
その顔に、堪え切れずに笑い出す月。それにつられる様に古畑も声を上げて笑う。

「「ふふふふふ、はははははははははは―――」」
その茶番に二人……そして死神はひとしきり笑い続けた後。

「お帰りください」
「はい、帰ります」
笑顔でドアを指差す月。笑顔で頷き、部屋から出て行く古畑。

「あー……すみません〜。最後に。もう一つだけ質問、宜しいでしょうか?」
しかし、ドアの隙間から顔を覗き込んで、古畑は再び問う。

「何でしょう?」
「夜神クン。貴方は劣等感を感じる程の欠点はお持ちですか?」

「…………古畑さん。それを他人に言えたら、劣等感とは言いませんよ」
「んふふ、確かに。失礼しました」
古畑は肩を竦める月の答えに苦笑しながら会釈し、今度こそ部屋を出て行く。

―――こうして。二人の初顔合わせは終了した。

解決編

213 名前:解説編・1〜古畑の謀策〜 [sage] 2006/02/17(金) 04:23:54 id:lJKtJr2K0
「くそっ!! 何の証拠も無いのにカンだけで僕をキラだと決め付けるな……!!」
窓から古畑の姿が見えなくなってから、月は机を叩きつけながら毒突く。

【まぁ結果的に、そのカンは大正解なんだがな】
「煩いぞリューク!!」
死神のツッコミに逆切れする少年。こんな月を見るのは初めてだ。

【……なあライト。そこまで深刻な状態か? 奴は直接キラを追ってる訳じゃないんだろ?
 だったら事故か自殺で殺してしまっても―――】
「確かに僕も最初は警視庁の刑事だから、奴の名前を調べて事故か自殺で殺せば良いと考えたよ。
 だが、古畑は『夜神月が犯人でありキラだ』と確信していた。……明らかに僕だけを追っている」

【? それが、そんなに問題なのか?】
「よく考えてみろ! キラだと確信した人物を追うのなら、事前策を講じるのは当然だろう!?
 古畑は間違いなく僕を調べる際に、警察庁へ『キラかもしれない人物を追っている』と
 アピールしている筈だ! “自分が死ねばそいつがキラだ”と暗示させるアピールを!!」
考えの足りない死神に偽神が怒鳴る。驚きと納得にリュークは目を見開く。

【あ、そうか……だからアイツは、あそこまでライトを挑発してたのか】
「考え無しに顔と苗字を晒して訪ねて来る訳が無いだろ。僕がそれに気付くと計算しての行動だ。
 ならば、既に古畑にはLからの監視が付いていると考えるべきだ」
ようやく死神が理解した様を見て、月は息を深く吐いて椅子の背にもたれる。

「これで僕は古畑を殺せなくなった……今、奴を殺すのは、自分はキラだと宣言するも同然だ。
 もはや、この状況では例え事故死や自殺であっても、古畑が死ねば警察は僕を疑うだろう」
古畑は警視庁の刑事だ。キラを追う組織が警察庁である以上、キラに殺される道理は無い。
―――そう。彼が追う『夜神月』が『キラ』でない限り。

リューク。お前は『直接キラを追ってる訳じゃないから殺しても構わない』と言ったが、逆だ。
 『キラを直接追っている訳じゃないからこそ、殺せない』、そういう状況に持ち込まれたんだよ、
 あの古畑という刑事に。やられたよ……L以外の人間に此処までハメられるとはな……!」
ギリリ、と音が出る程、奥歯を噛締める月。その顔には屈辱が浮かんでいた。

224 名前:解説編・2〜月の思惑〜 [sage] 2006/02/18(土) 00:04:14 id:ftT7nIle0
夜神邸から最寄り駅の側にあるビジネスホテル。その一室に―――

「只今戻りました、古畑さん」
「お帰り、西園寺君。……ちゃんと警察庁の監視は付いていたかい?」
部屋に入って来た西園寺をケーキを食べながら迎える古畑の姿があった。

「はい、バッチリです。ホテルに入る途中、無茶をしない様にと忠告までしてくれました」
「よろしい。夜神月に殺される心配はひとまず減った訳だ。じゃ、彼の調査結果、教えてくれる?」
ケーキを突付きつつ、部下に報告を促す古畑。因みに今泉は隅で布団を被り震えていた。
……そんなにキラが怖いならついて来なければ良いのに、難儀な奴だ。

「正に『完璧な優等生』でしたよ、夜神月は。裕福な家庭。抜群の容姿に、身長179㎝の高身長。
 全国模試で常に一位を獲る超秀才。中学テニス2年連続全国優勝経験ありのスポーツ万能。
 素行や人間関係も極めて良好で、妬み以外の悪口を言う人間は、ゼロでした」
「いるもんだねぇ……完璧な人間って」

「でも僕は認められない……性格が良くて、勉強が出来て、スポーツ万能で……背も高い男なんて!」
「あー……西園寺君? 背が高いのは関係無いんじゃない?」
「大有りですよ古畑さん! 僭越ながら、僕も勉強とスポーツは人並み以上出来ました。しかし!
 『背が低い』と言うだけで何人の女性に振られた事か……っ!! 一方、奴はその背の高さで
 30名以上の美人とデートして、その内の17名に抱かれたいと思われてるんですよ!?」
「何て奴だ! 夜神月は男の敵だ!! こんな奴こそキラは殺すべきだ!!」
「……だからね今泉君。その彼がキラなんだって」
血涙を流さんばかりの顔で語る西園寺。布団の中から憤る今泉。ツッコミを入れる古畑。

「だけど、ここまで完璧なら、きっと自分以外の全てが無能、或いは愚かに見えているんだろうね。
 それ故に『世界の不完全さ』が彼のコンプレックスとなってしまった…………」
「だから『完全な世界』に変える為に悪人を殺すと? 何様のつもりですか、アイツは!?」
古畑が推理するキラの思想に、真面目な西園寺が怒りを交えた疑問をぶつける。

「神様。―――の、つもりなんだろうねぇ。たぶん」
それに古畑は窓の外を眺めながら答える。……怒りとも悲しみともつかない表情で。

250 名前:解説編・3〜勝利の戦略〜 [sage] 2006/02/23(木) 23:51:52 id:bJcZZKd10
【―――なぁライト。古畑とLが協力してお前を追及しだしたら、ヤバイんじゃないか?】
「確かにそうなったら、僕でも危うい。……でも、忘れてないか? 古畑は『キラを追っていない』、
 この前提があるからこそ殺されないのだから、キラを追うLと接触するのは拙いだろ?」
半ば嘲る様に訊ねる死神に、月は幾分落ち着きつつ答える。

【古畑はそうかも知れないが、Lがお前を調べる分には問題ないぞ?】
「大有りさ! Lの方こそ協力できない理由が強いよ。古畑はLにとって、格好の『判断素材』だ。
 現状で奴が死ねば、キラ=夜神月という確証を得る事が出来る。だがその際、本部が動いてたら
 キラを追う者として古畑が殺された可能性が出て、僕をキラだと断定し辛くなるのさ」

【……成程。つまり、Lは高みの見物をしながら、古畑が殺されるのを待ってる訳か】
「そういう事さ。だが、それは『古畑が生きて僕を調べている間、Lは動けない』とも言える。
 同じ人物を追うのに協力できない……そう。其処こそが僕の勝機となる、奴らの弱点さ」
勝機を見出した事で普段の調子に戻る月。その顔は、普段の……偽神の凶笑であった。


「―――神様!? そんな馬鹿げた事を本気で思ってるんですか!? 奴は!?」
「つまりね。全てに完璧だった事で感じていた『万能感』が“人を殺す能力”を手にした所為で、
 己を神と妄想する程の『全能感』に変わり、己の完全さを世界にまで求めだした……って事さ」
驚愕の表情で問う西園寺に、額を指で支えつつ古畑は渋顔で答える。

「……確かに、夜神月の様な男なら、今泉さんの様な人間が同じ世界に居る事自体が屈辱でしょうね」
「な、何でソコで僕の名前が出るの!? 古畑さん、コイツに何か言ってやって下さいよ!!」
吐き捨てた西園寺の台詞に、慌てる布団デコ。

「その通りだよ、西園寺君。だけどね、それが夜神月の最大の弱点になるんだ」
「最大の弱点、ですか?」
「無視っ!? しかも肯定してるっ!?」
「彼は己が全能であると信じるが故に、自分とは違う視点や考え方が優れているとは考えない。
 自分を超える発想と推理は無いという驕り……我々の勝機は其処さ」
抗議しだした布団星人を他所に、古畑は断言した。その、いつもの不敵な笑みで。

番外編

94 名前:番外〜作者の見解〜 [sage] 2006/01/31(火) 20:05:56 id:GHtvVAgA0
>>89 の「なんで月が勝つ展開を誰も書かないの?」 という質問に、
気分転換がてら、自分なりに考察してみた。

【1】月が圧倒的に有利だから。

   デスノート一巻の71ページの月が調子に乗っているシーンで解るように―――
   現実的に考えて、警察が『キラ』を捕らえる事は不可能に近い。
   だから、デスノの作者は、現実離れした『L』や『メロ&ニア』なんてキャラと月を対決させている。
   (その所為で回を追うごとに頭脳対決から離れていく気がするが……これはこれで面白いからアリ)
   ごく普通(?)の刑事『古畑任三郎』が、(死)神の力を振るう『キラ』を
   常識の範囲内の言動で追い詰める話は、プロットを書いている時点でも、
   凄いゾクゾクするし―――面白い。


【2】『悪』が勝利する話は大変ストレスが溜まる。

   読み手もそうだが……書き手も『悪党が笑い、善人が泣く』シーンはもの凄い腹が立つ。
   ナオミ・ペンバー(敢えてこう書く)が夜神月に騙されて殺されるシーンを見て、
   「やったぜ! ヒャッホゥ! ざまぁみろ!!」と、思った人は恐らく居ないはず。
   ……つーか、居たら異常だ。
   オレ、自分が正常な人間だと思ってるんで、正常に『善』が勝つ話を書きたい。
   頭を必死に使って、わざわざストレスを溜め込むような事はしたくねー。


>>89への回答 : 物語的に面白く出来ないし、書いたら書いたで気分悪い上にブーイングものだから書かない。


まあ……月はその『邪神的頭脳』によって、古畑へ痛烈な反撃を加える予定だし、
月が追い詰められてボロを出した所をつついて終わり、みたいな展開にはしないから
そこら辺は期待しといていいと思うよ。

―――長文、失礼。 ……さて、『古畑』のサントラ聞きながら続きを書くか。