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本の予約すると、発売日翌日の午前中に発送するなのな。都内だから市川からその日のうちに届くが、特にAmazonでなければならない以外は神保町で買ったほうがいい。フラゲできる。

[テメレア戦記] I 気高き王家の翼

[テメレア戦記] I 気高き王家の翼

 結構面白かった。ナポレオニック+兵器としての竜の組み合わせを扱った翻訳小説物は珍しいのでなおさら。海洋冒険小説にせよナポレオニックにせよ日本に市場はほとんどないのに出版したヴィレッジブックスはよくやった。

 時はナポレオン戦争期、いまだ英仏の趨勢が定まらぬころ。主人公ローレンスは孵化したばかりのドラゴン・テメレアと絆を結んでしまったため艦長の地位を捨て、海軍から空軍へ移籍を余儀なくされた。空軍と海軍のノリの違いに戸惑い、しかし次第に空軍士官たちと打ち解けていく。新しい出会いや厳しい訓練などコマかな意外性に驚きつつ一人前の戦闘ドラゴンとそのパートナーに成長していくテメレアとローレンス。最初こそ戦意も高らかなれど初めての戦闘で傷ついた仲間のドラゴンに衝撃を受けるなど、海洋冒険物や軍隊物の王道をなぞるストーリ展開は王道的だからこそ面白い。クライマックスの戦闘シーンは
非常に絵栄えするもので、ピーター・ジャクソン監督の映画(映画化権獲得済み)が楽しみだ。フランス兵が奇策によりドーヴァーの絶壁を越えて次々に上陸するシーンは見ごたえあるものになると思う。
 ローレンス海軍で艦長まで務めた人物で、一貫して「大人」として描かれているため、軍隊物にありがちな勇敢だが思慮の浅い若者の無謀さを披露することがないのも好印象。空軍の問題点にはっきりと反抗し、より効果的な自分の流儀を貫きつつ、外部者としてみてはじめてわかった海軍の欠点をみつめるのは本作のような経歴をもつ主人公だからこそ描写できたのだろう。

 軍隊物としては王道的すぎさほどの意外性もないが、それだけにストーリー展開は手堅いものであるし体中をハーネスで縛った大小さまざまな竜たちが地上や海上の銃兵・戦列艦と入り乱れる戦場は非常に魅力的だ。トラファルガー海戦はナポレオンが海軍主力を囮にした、一世一代の大博打であったのもおもしろい。あの奇策はぶっちゃけ軍用の大型竜がいるというだけで読めてしまうがいいアイデアではあった。そう言う意味では、1600円ばかり払って買った価値はある。ハヤカワあたりが文庫でだしてくれれば、読みづらい上に古臭くなったかもしれないかわりに、海事用語は正確に、そしてなにより1000円未満で入手できたかもしれないが。


 「元寇を「神の風」で撃退した日本の竜『ライデン』」や「国家が小型竜を大量に戦場に投入していた十字軍の時代」といった記述をみると、むしろそっちに興味がいってしまうのは本書のあまりいい読み方ではない。どうも読む限りドラゴンは種族の別はあるとしても自然動物として世界中に分布しているようだし、人間に使役させたのもそう新しいことではないらしい。そして、トラファアルガー海戦*1直前まで、いわゆる「正史」とまったく同じ歴史をこの世界は歩んできている。この世界では、繁殖・飼育技術の発達したナポレオン戦争期のフランスでさえも百頭単位でしかドラゴンは保有していないようだが一軍に1頭でも竜がいれば戦闘結果に大きく益する。偵察用の小型竜であろうともそれだけで「正史」を捻じ曲げるには十分だ。地平線の向こうを見通すどころか、地平線を飛び越えて偵察し、多少の地形を無視できるユニットがあったとしたらほとんどの歴史上のほとんどの会戦は様変わりしてしまうのではないだろうか。地形にかかわらず馬を圧倒するスピードで移動する伝令があったら、としてもいい。絶対数が少ないから社会システムに影響はさほど与えられないのかもしれないが、軍事的には古い時代であればあるほど変動してしまうのではないか。本書は別にSFでも広義の歴史改変架空戦記でもないので(おそらく)二巻以降もこうした記述はでてこないのだろうが、なんとなくそういう方向を想像してしまった。
 


どうしてもマルクス登場で吹いてしまう。メイドスキーの存在は反則ものだ。


全体的に、実現していなそうで実現可能な技術の大判振る舞いなこのシリーズ。最後に大どんでん返しが待っているので最終巻たる次巻が楽しみだ。

おまもりひまり 2 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-2)

おまもりひまり 2 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-2)

緋鞠はかわいい。静水久もかわいい。登場するだけで反応してしまう。

*1:そういえばこの世界のネルソンは史実通りに大勝利したものの戦死しなかった。「Kiss me, Hardy.」という名場面は生まれなかった。また、「ともに死ぬことを名誉に思」っていた徽章と文字通り死ぬまでともにすることになってしまった。