愚人ホワイヌ・スティークの帰郷

山間の寒村に住む愚人ホワイヌ・スティークにとって、世界は村の教会を中心とした半径数リーグの谷間、
それも谷のいっそうせばまる村境の橋まででしかなかった。
彼はそこで小麦を育て轢いて暮らしていた。無学の人ではあったが信心篤く、常に聖書を読んではなさなかった。
終生結婚しなかったがあるとき縁談もちかけられた彼は「私は聖書と結婚している」と答えた。
しかし、あるときささいな理由で実の兄を殺し、村から逃亡した。

名を変え軍隊にもぐりこんだ彼は、そこそこの人数をまとめる才があったらしく軍曹となり、
軍需物資の横流しで私財を蓄えた。
あるとき所属する要塞が敵に包囲された。彼が物資庫の見回りにでかけたとき、
攻城砲が直撃してウオッカを全身にあび、くしくも発生した火災に巻き込まれた大やけどを負った。
もはやかれに昔日のホワイヌ・スティークの姿はどこにもない。スティークは名無しの流民として故郷に戻った……。