潜入盗測

対外軍用秘密地図のための潜入盗測〈第1編〉外邦測量・村上手帳の研究

対外軍用秘密地図のための潜入盗測〈第1編〉外邦測量・村上手帳の研究

 1905年から1938年まで33年にわたって朝鮮・中国においておこなわれた秘密測量を村上千代の「村上手帳」を出発点とし、  スパイによる秘密測量はもとより陸地測量部にもふれ、「外邦図」製図の経緯・測量の実態を解き明かそうとする一冊。ただ400ページ超の大作なのでちょっと読みとおせるものではない。


 陸地測量部のいわば公的な測量を補い、あるいは上回る働きがあったスパイによる潜入測量の結果作成された一連の外邦図はかなり精確だったというが、そういえば支那事変に従軍した将校・兵士の手記で地図への不満をみたことはあまりない。一方、フィリピン・インドネシアなどにおいては不正確で使い物にならないという記述をたまに目にするのは、19世紀末から綿々と続けられた秘密測量によるところが大きいような気がする。もちろん、支那事変当時と太平洋戦争開戦後とでは将校の質も数もそして手記そのものの数も違うので比較にはならないだろうが。一兵士は地図と無縁であることもあるだろう。



 著者のプロフィールのほうが興味深かったり。

1945年9月日本人と中国人を父母に疎開先の長野で出生。60年安保国会デモに中学生で参加。秋田で学生運動。その後、反戦運動三里塚闘争支援闘争などを続ける。70年農民誌『北の農民』を創刊、編集(7号まで)。同じ頃から花岡事件調査を始める。90年以降、花岡事件中国人受難者の調査、裁判支援にかかわり今日に至る。現在執筆、研究活動のかたわら書籍編集に携わる

表紙に「李 国昭」とあえて名前を併記した著者の考えが伺える。